生物多様性基本法に関する法教育授業内容

それでは、生物多様性基本法に関する法教育の授業原案です。

ご興味のある方はどうぞ。

 

 

第6回『北区法教育プロジェクト』授業原案(生物多様性基本法編)
「『きまりがあるのは何のため?』~きまりの意味を考えてみよう!~」
平成24年2月10日


一、はじめに(自己紹介)
1.はじめまして。行政書士の○○です。
行政書士は『頼れる街の法律家』といわれているように法律を扱う仕事をしています。
今日は先ほど皆さんにこのパンフレットをお配りしたように、皆さんと一緒に、自然を題材にして『きまり』について考える法教育の授業を行いたいと思います。よろしくお願いします。

 

2.それでは、後ほどグループ討論をしてもらいますが、

そのときに一緒に参加してくれる私と同じ行政書士にもあいさつしてもらいます。

 

3.『はじめまして、行政書士の△△です。今日はよろしくお願いします。』

 

二、主題の提示
1.それでは早速はじめましょう。
まずは、皆さんに質問です。皆さん、この鳥の名前を知っていますか?
(→問いかけ。トキの写真を提示。)
そう、トキですね。ニュースなんかで、日本から絶滅したトキを復活させようという活動をしているのを見たり、聞いたりしたことがある人もいると思います。

 

このトキだけでなく、例えば、皆さんが修学旅行で通ったかもしれない日光杉並木街道など、『学術上価値』が『「高』く、『特に重要な』『動物』、『植物』などについては、文化財保護法により特別天然記念物に指定されて、保護されています。

 

皆さんにお渡ししたプリントの文化財保護法と書いてあるところの囲ってある文字を見てください。文化財保護法第196条で、『天然記念物の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、き損し、又は衰亡するに至らしめた者は』、要するに、文化的に重要な天然記念物を傷つけたりしたら、『五年以下の懲役若しくは禁錮又は三十万円以下の罰金』になるとして、天然記念物を保護しています。

 

2.また、貴重な自然を守ろうという法律である自然公園法21条3項では、

国立公園や国定公園の特別保護地区内においては、環境大臣や知事の許可を受けなければ、勝手に植物を損傷、すなわち、傷つけたり、動物を捕獲し、若しくは殺傷し、又は動物の卵を採取し、若しくは損傷することしてはいけないとされていて、83条では、そういうことをした人は六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する、と定めています。

 

もちろん、この法律以外にも自然や生物を守る法律はたくさんあります。
これは環境に関する法律をあつめたものなんですが、こんなにあります。

(→環境六法を用意。)すごいですね。

 

この中には、文化財保護法や自然公園法のようにずっと昔から定められていて、もちろん罰則があるものもあります。そうやって自然を守っているんですね。

 

 

三、自然の減少について
1.また、皆さんは、このような自然や環境を守るためには、法律があるだけでなく、学校の授業やテレビなどで、自然や環境を守ろうという環境保護運動があるのは知っていると思います。

 

2.けれども、自然は充分には守られてきませんでした。
きまりがあったのになぜ?と思うかもしれませんね。これにはいろんな理由が考えられますが、一つは、皆さんにも考えられますよね。

 

授業で勉強したと思いますが、自然や生物の保護よりも、工業化・宅地化という経済成長を優先して、自然が失われていったんですよね。そして、不幸な例として公害なども起きたことも学習したことと思います。

 

3.このようなことは浮間でも起きています。
さあ、この地図を見てください。この地図は明治のはじめ、今から130年ぐらい前の地図ですが、何の地図かわかりますか?(浮間の地図)

 

そう、浮間ですよね。この川が曲がった感じがそうですよね。
この地図にあるように、以前、浮間は、田んぼや畑が広がっていて、桜草がたくさん咲いていたそうです。

 

浮間の方に聞いたら、昔は荒川土手から、桜草があたり一面見えたそうです。

そう、皆さんの今いる浮間小学校は桜草がいっぱい咲いていたんだそうです。

別に保護する必要もなく勝手に咲いていたそうです。
でも、それがなくなってしまった。

荒川放水路ができ、工業化、宅地化が進み、浮間は、人にとっては住みやすくなったけど、桜草にとっては住みにくい場所になってしまったんですね。

こういうことは、浮間だけではありません。日本中また世界中いたるところで同じことが起きています。

 

4.そのせいで、現在、ある調査では毎年1000種から1万種の生物が、この地球上から姿を消しているといわれています。もちろん、長い地球の歴史の中では、恐竜などをはじめとする生物の大絶滅が幾度も起きてきました。しかし、以前と比べて、生物が絶滅するスピードが圧倒的に速いそうです。その速さは、人間が関与しない状態で生物が絶滅する場合の1000倍から1万倍になるといわれています。つまり、人間にとって便利になったおかげで、さまざまな動植物の滅亡の測度が早くなっているんです。

 


四、自然保護の台頭と自然の恩恵の例
1.でも、だんだんとそうやって自然を破壊していくことは、おかしいな、良くないな、自然がなくなるのは寂しいな、人間は自然からさまざまな恩恵をうけてきたのだから人間の都合で一方的に、しかも、あまりに急速に自然を減少させる行為を行うことは良くないな、と考えるようになってきました。

そして、自然を保護する運動も高まってきました。浮間の桜草の保存もそういう流れで考えられますね。

 

2.さあ、それでは今から、自然のおかげとか、自然の恵みとか良く言われるけど、どんなものがあるかを班ごとになって話し合って、いくつか挙げてもらいます。そして、その中のいくつかを後で発表してもらいます。それでは宜しくお願いします。

 

3.なるほど、いろいろありますね。
それでは、私も一つ例を挙げたいと思います。
この新幹線を見てください。(→新幹線の写真を提示)
この先頭がとがっているのは、空気抵抗による騒音を防止するためなんですが、これはどうして考え付いたと思いますか?

これは、餌を採るために水中に飛び込むカワセミのくちばしを研究して開発されました。

(←カワセミの写真を提示)

こんな風に恩恵を受けているなんて、ちょっと、驚きですね。

 

 

五、生物多様性基本法の提示
1.そう、電気や食べ物、洋服などもすべて、

太陽、木、水、土、石、植物、動物など、さまざまな自然のあるおかげですね。
そう、皆さんの給食だって毎日毎日同じだった、あんまり楽しくないですよね。
いろいろな植物、生き物がいるからいろいろなものを食べられるんですよね。
そうですよね。

地球上に人間以外の様々な生物がいることは当たり前だし、人間は様々な自然があるおかげで生きているですよね。そうであるならば、人間は、過度な自然破壊をしないように、さまざまな動物、植物、自然と共に生きていかなければいけない、ということも当たり前ですね。

その当たり前のことが出来ていないとそのうち人間も滅んでしまいますよね。

 

2.でも、その当たり前のことができてこなかった。

しかし、世界の多くの人々がこの当たり前の大切さに気がつき、この当たり前のことを紙に書こうと考えました。

それを表したのが、1992年に出来た生物多様性条約です。

それを受けて、日本では、平成20年に、生物多様性基本法という法律を作りました。
そして、2010年は国際生物多様性年として世界中の人がこのことを話し合うために、名古屋で会議を開き、今年は環境を考える地球サミットが日本で開かれています。

 

3.生物多様性といっていますが、今言ってきたことと同じことです。
パンフレットを開いてください。

1ページ目のところに、『①生態系の多様性』ってありますね。

これは要するに、山や丘や川のように様々な自然があるということです。

そして、『②種の多様性』では、動物、植物には、いろんな種類がいるということです。

また、『③遺伝子の多様性』では、同じ種類の動物、植物でもいろんなタイプがいるということです。

生物多様性基本法はそれらを大切にしましょうということが書いてあるだけなんです。

 

 

六、きまりを考える。
1.さあ、今までどうして生物多様性基本法が出来たのか、

その理由を説明してきましたが、難しかったでしょうか?
それでは、ちょっと、生物多様性基本法を見てみましょうか?(→条文を見せる。)

 

2.確かに法律の文章はちょっと難しいですね。
でも、中身は何か特別難しいことが書いてあるわけではないんです。

下の方にある1条を見てください。
そこには、さっきから繰り返し言っている

『生物多様性の保全』、『自然と共生する社会の実現』が書いてありますね。

 

生物多様性基本法1条は難しいことが書いてあるようですけど、『生物多様性』を守って、『自然と共生する社会の実現』を目指しましょう、この法律はそのことを目的として出来ましたよ、

ということが書いてあるんです。

 

そして、そのことが一番初めに書いてあるということは、そのことが大事で、そのことをみんなに知ってほしいんです。だから、一番はじめに書いてあるんです。

 

3.さあ、今日の授業は、「『きまりがあるのは何のため?』~きまりの意味を考えてみよう!~」というタイトルでしたね。

 今日、皆さんにお伝えしたかったのは、きまりは罰を与えるためだけにあるのではないということなんです。

きまりには、そのきまりを作った目的や理由があります。

それを知ってもらうためにもあるんだということを知ってもらいたかったんです。

 生物多様性基本法も1条で『自然と共に生きる社会の実現』として、きまりがある目的が一番はじめに書いてありましたね。<→前文は制定理由>

 

先ほどの自然公園法をご紹介しましたが、実はあの法律でもそうなんですよ。
先ほどのプリント一番下の自然公園法第1条を見てください。

「この法律は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的とする。」と書いてありますね。ちゃんと、この法律がなんのためのきまりかが書いてあります。

 

きまりと言うと罰を与えることが目的で、○○してはいけないというものがずらっと
並んでいると思う人も多いかもしれませんけど、きまりはそれだけではありません。

きまりには、きまりが出来た目的、理由があります。

そのことを知ってもらうためにもあるんです。

そして、そのことがたとえ書いてなくても、

きまりのできた理由、目的を考えられる人になってもらいたいんです。

 

4.そして、このことは皆さんの身の回りのきまりでも同じですよ。
皆さんの周りには、学校やクラスのきまりなど、たくさんのきまりがありますよね。
そういった身の回りのきまりやルールについて、なんでこんなきまりがあるのかなって自分の頭で考えてみてください。


たとえば、廊下を走ったらいけませんというきまりはどうでしょうか?
これって先生が走った人を叱るためにあるのでしょうか?

違いますよね。
走って怪我しないようにですよね。

 

そうであるならば、階段もそうですし、駅のホームでも走らない方が良いって考えられますよね。
これから中学生になってからも皆さんは様々なきまりに出会うことと思います。
それらのきまりについて、ただ単に、言われたから、叱られるから、守るのではなく、なぜ、そのきまりがあるのか?という、きまりがある理由・目的を考えられる人になってほしいということなんです。そして、きまりの理由、目的を知って、守ることの出来る人になってほしい、ということなんです。

 

皆さんも、身の回りのきまりやルールについて、なんでこんなきまりがあるのかなって、きまりの意味を自分自身の頭で考えて、きまりの目的、理由を知って、きまりを守れる人になってほしいなって思います。

 

今日は、きまりについて考える法教育の授業なので是非そのことを皆さんにお伝えしたかったんです。

 

【余裕があれば、下記★】

 

5.さっきの、生物多様性基本法でいえば、その目的である『自然と人との共生』の意味を考えることは、校庭のビオトープだけでなく、みんなが住む浮間全体が生き物の住む場所、すなわち、ビオトープとして、どうしたら良いのかを考えることにもつながっていくのではないかなって思います。

 

6.そして、もし、生物多様性基本法の目的である、人と自然が共生することができたら、いつの日か皆さんの作った棚田にもトキがやってくるかもしれませんね。

トキは浮間の近くに来て皆さんの棚田を見たら驚くでしょうね。

あ、こんなところにも故郷と同じ棚田があるってね。

そして、降りてきたら棚田だけでなく、小川が流れ、池があり、里山があってと、とってもうれしいでしょうね。そうなったらステキですよね。

 

七、終わりのあいさつ
1.それでは今日の授業はこれで終わります。
  最後に今日の授業の感想を書いてくださるとうれしいです。
2.手伝ってくれた行政書士の人からも一言あいさつしてもらいます。
3.それではおしまいです。



 


こういうことを知っていると法律や身の回りにあるきまりの見方が変わりませんか?
すなわち、きまりは『守らないと叱られるもの』、『窮屈なもの』というよりも、『みなさん、こういう理由のきまりですよ。みんなで一緒に守りましょう』ということを伝えるものと感じることが出来ると思います。法律は罰するため、守ってもらうためだけにあるのではないんです。

その理由・目的を伝えるためにも存在するのです。
実は、私達、法律家も法律を調べるときには、なぜこんなきまりがあるんだろう、

このきまりの目的はなんだろう、って考えるんです。

 

そうして、法律のことで悩んでいる人に、この法律は、こういう目的、こういう理由の法律だから、たとえきまりに書いてなくてもこうしたらどうですか?などとアドバイスをしたりするんです。そういうことを難しい言葉で、法解釈といいます。